ハローワークへの苦情No.1は「求人票の内容が実際と異なる」ことで、その件数はわかっているだけで約1万件、全部含めると数万件〜数十万件に及びます。
そんな求人詐欺に引っ掛からないためには、引っ掛かってしまった時には、適正な対処をする必要があります。
「働きやすい環境」で1日12時間以上働き、もう限界
小学4年生と2年生のお子さんを持つTさんは、子育てがひと段落したタイミングで仕事探しをはじめました。
そんな時、子育て中の女性のためのハローワーク「マザーズハローワーク」で、こんな求人票を見つけました。
『お子さんがいる女性でも働きやすい職場です!週休2日、残業月約10時間程度、有休消化率100%推奨!』
学校のPTA役員にも選ばれちゃったし、子供の夕ご飯も作らなきゃいけないし、融通の利く会社が良いと思っていたTさんにはぴったり。
すぐにエントリーして面接に行きました。
面接は終始和やかなムードで、「良い人たちだなぁ」と感じたそうです。
唯一引っかかった点は、「残業ってできますか?」という質問が上がったこと。
求人票には「月10時間」って書いてあったし、まぁたまには少しくらいいいかな、と「大丈夫です!」と答えました。
これが悪夢の始まりでした。
Tさんは初日から異変を感じていました。
「この会社、挨拶ないなぁ。。」
そうです、この事務所には挨拶をするという文化がありません。
「おはようございます」も「お疲れ様」もないのです。
1週間後からは「もう帰るの?」と、残業を求められるようになりました。
周りを見れば、定時に帰宅する人は1人もいません。
それどころか「また土日仕事したんですかぁ?さすがっすね!」と、残業に加え休日出勤までもが常態化していました。
自分だけ帰るのも気がひけるし、早く帰る人(と言っても毎日11時間位会社にいる人)は会議室に呼ばれて「最近やる気ないよね」とネチネチ言われている様子。。
Tさんも残業を余儀なくされました。
子供の夕飯は定時で帰ってくる夫が用意し、家に帰ればいつも子供達は寝ている時間です。
頑張って働いて、家では夫に「なんで辞めないの?」と呆れられ。
Tさんがこんなにも頑張ってしまうのには、ある理由がありました。
この会社は「女性」という理由だけで管理職にはつけない男尊女卑の会社だったのです。
負けず嫌いで仕事もできるTさんは、なんとか自分を認めさせてやろうと、毎日12時間以上、2年間必死に働きました。
誰よりも必死に仕事に没頭し、誰よりも会社の売り上げに貢献しました。
ところが・・・
ある日新たにチームが組まれ、チームのリーダーへと昇進したのは、Tさんが1年間必死に教えてきた男性社員でした。
この会社では、仕事のできるできないにかかわらず、上司への口利きの上手い男性社員が管理職を占めていました。
Tさんは愕然としました。
男性社員だけの飲み会や会議、そんな光景を嫌という程見てきたTさん。
「私が頑張って管理職について、男尊女卑の文化を取っ払ってやる!」と必死になってきた自分が情けなくなり、会社に行くことが嫌で嫌で仕方がなくなってしまいました。
毎日毎日遅い帰りで疲れ果て、家庭環境は冷え込み、会社では女性というだけの理由で昇進もない。
当初、求人票に記載してあった
『お子さんがいる女性でも働きやすい職場です!週休2日、残業月約10時間程度、有休消化率100%推奨!』
は一体なんだったのだろう。
何もかもが嫌になって、ある日Tさんは精神的に限界を迎えて退職することになりました。
ハローワークだけでも年間8,500件超の求人詐欺!?
Tさんのように求人詐欺に合わない為にはどうすればいいの?
「求人票の内容と実際の労働内容が違う」とのハローワークへの苦情は、平成29年度だけで8,507件もあります。
実際にはTさんのように、苦情を申し出ない人は全体の96%〜80%にのぼるとのデータもあるので、リアルな数は数万件〜数十万件に及ぶとの見方もあります。
実際に厚生労働省のデータを見てみましょう。
賃金に関すること | 2,336件 |
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就業時間に関すること | 1,789件 |
業種・仕事の内容に関すること | 1,255件 |
選考方法・応募書類に関すること | 963件 |
休日に関すること | 847件 |
雇用形態に関すること | 669件 |
社会保険・労働保険に関すること | 550件 |
「賃金に関すること」と「就業時間に関すること」が多いことがわかります。
求人票に記載されていた賃金額や就業時間が、実際の労働契約とは異なっているなんて、普通に考えればあり得ない話です。
ところが、実際にはこれだけ多くの方が詐欺まがいの求人に悩まされているのです。
次に、苦情(申出等)の主な要因はどこにあるのか見てみましょう。
求人票の内容が実際と異なる | 3,362件 |
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求人者の説明不足 | 2,070件 |
言い分が異なる等により要因を特定できないもの | 778件 |
休職者の誤解 | 480件 |
ハローワークの説明不足 | 111件 |
要因は「求人票の内容が実際と異なる」「求人者の説明不足」がダントツで、どちらも求人側に問題があるようです。
注意してほしいのは、これは直々にハローワークに苦情を入れた人の件数であって、発生件数ではないということです。
泣き寝入りしている人の人数を足せば、とんでもない件数になることがわかります。
もしかしたら入社してからも気がつかずにただただ馬車馬の如く働いている人も多いかもしれませんね。
入社時にちゃんと労働契約書を確認するようにしましょう。
詐欺まがいの求人に罰則はないの?
これだけの求人詐欺(まがいとしておきます)が横行しているなんて、それを取り締まる決まり事はないのでしょうか。
ハローワーク等で取り扱う求人には、職業安定法という法律が適用されます。
具体的には、「ハローワークや自社HP等で求人広告を掲載するときに、求人票や募集要項で労働条件を明示してね」ということです。
しかし、実際には入社前後に労働契約を結ぶことが多く、その時点で「募集内容と違うじゃないか!」と声をあげる人は少ないですよね?
もしかしたら他の内定を蹴っているかもしれないし、すでに引越しをしてしまっていることだってあるはずです。
そんな状況で「求人票と条件が違うのでサインできません。」とはなかなか言えないものです。
求人側としては、「求人票を出した時と入社時で状況が変わった」と言えば罰則を逃れることができてしまいます。
そうならないように、労働基準法では「労働契約の締結に際し」就業時間や賃金といった労働条件の明示が義務付けられています。
言い換えれば、「労働契約書にサインするときにちゃんと条件の説明してね」というものです。
平成30年1月1日の改正で、「労働条件に変更が生じた場合には、すみやかに変更内容を知らせてください」という内容が追加されました。
「変更はいつまで認める」という決まりはありません。
初日に出勤して初めてその内容を確認し、「あれ?内容違うんじゃない?」となっても、実際にはほとんどのケースでもう遅いですよね。
多くの場合、その労働契約書に書かれている内容でサインしてしまうことと思います。
求人側からすれば、
「求人票を出した時と状況が変わったから、変更については労働契約書に書いてあるし、あなたが自分で確認してサインしたよね?」
ってことなんです。
「変更についてはちゃんと説明したし、確認した上で納得してサインしたお前が悪い」と言わんばかりです。
求人票と実際の労働契約の内容が異なることがあまりにも多いので、少しずつ法律も変わってきてはいます。
しかし現状では求人票は、実際の労働契約を結ぶための「甘いエサ」として利用している企業もあるのでしょう。
ブラック企業にはまだまだ法の抜け道があると言わざるを得ないようです。
求人詐欺を見抜く3つの方法
求人詐欺(まがいとしておきます)の被害に遭わないために、3つのポイントをお伝えします。
会社説明会で実際に従業員と話してみる
受ける会社が会社説明会を開催していたら、面倒臭がらずに行ってみましょう。
会社説明会では、企業側も良い人材がいないかチェックしていますが、こちら側としてもリアルで働いている従業員の意見を聞くことができる良いチャンスです。
説明会で話をする従業員は、基本的に会社での自分のカブを上げようと良いことしか言いません。
しかし、説明会後の懇親会がある場合は、その他の従業員と話をするチャンスがあることもあります。
面接前、入社前だからこそ、しっかりと疑問点をぶつけてみましょう。
例えば残業時間だったり、昇給の仕方だったり、実際どうなっているのかを聞いてみることをオススメします。
立場が逆であれば、その場にいる従業員は会社にとって良いことしか言わないことがわかると思いますが、それでも詳しく突っ込んだ質問をぶつけていけば、相手の目や仕草から嘘なのか本当なのかわかることが多いでしょう。
後ろめたい嘘を平然とつける人はそう多くありません。
人間にはもともと瞬間的に嘘か本当かを見分ける能力が備わっていて、知らず知らずのうちにそれを活用しながら生活しています。
できる限りたくさんの人と話をしてみましょう。
面接で質問する・相手をよく観察する
会社説明会に参加できず、いきなり面接に行く場合も同様、直接質問したときの相手の顔をよく見てみましょう。
この時に有効なのが、求人票や募集要項に記載されている事項が答えとなるような質問をぶつけてみることです。
ある程度の人数がいる会社であれば、面接官と求人募集を行う人が同じことはまずありません。
求人の募集要項を作成する人の目的は、どれだけ多くの求職者を集められるかということです。
中には自分の成果を出したいが為に、過大広告を打って求職者を集める担当者もいます。
そこで、実際の面接の際に求人票や募集要項に記載されている事項が本当なのかどうか、面接官に質問してみましょう。
「求人票の内容は本当ですか?」といった直球の質問ではなく、記載されている内容が答えとなるような質問を考えておきましょう。
面接官も人間です。
事実と異なることを話すときは、表情の何処かに変化が出ることが多いので、質問をする前と後の表情に注意してよーく観察するようにしましょう。
人手の足りない会社だと特に、求職者に大きな問題がなければどんどん採用したいと思っています。
一度採用してしまえば、たとえ条件が異なったとしてもそのまま働き続ける人が多いことも彼らは知っています。
それでも面接で事実と異なることを話す時には、表情のどこかに変化が表れます。
注意深く、よく観察するようにしてください。
意識していれば、どういうわけか嘘か本当かはなんとなくわかるものです。
面接の基本は、2つの目的を持って挑むことです。
1つ目は「良い人材だと思ってもらうこと」、2つ目は「求人詐欺を見抜くこと」です。
面接というと、どうしても「品定めされている感」を感じてしまいがちですが、そもそも就職は労働「契約」です。
自分が契約するにふさわしい会社かどうか、求職者側もしっかりと見定める必要があります。
面接に挑む際は、目的を明確にして挑むようにしましょう。
専門のエージェントにしっかり相談する
会社説明会が開催されていない、面接で見抜く自信がないという方は、専門の転職エージェントを利用することをオススメします。
最近は各業種毎に専門の就職・転職エージェントが増えてきました。
専門のエージェントを利用するメリットには次のようなものがあります。
特化型転職エージェントを利用するメリット
- その分野に精通した担当者の意見を聞くことができる
- 業界の動向(売り手市場か買い手市場か)を知ることができる
- 応募したい会社の入社成功例や失敗事例を聞くことができる
- (もしかしたら)業界での悪名を聞き出せる
- 求職者のレベルに応じて適正な報酬の会社を紹介してもらえる
正直な話、残念ながら私が面接を行なっていた法人の求人票は、事実とかけ離れた記載をしていたこともあります。
しかし、そういった情報は、長い間業界の求人市場動向をチェックしていれば見抜くことができることもあります。
また、一つの業界に特化している為、実際に面接を受けた方や、入社された方からフィードバックを受けてそれをデータベース化することができるため、表面的な求人票や募集要項からは知り得ない情報を入手することができます。
一つの業界に特化して、こういった生のリアルな情報をたくさん集めることができるのは、専門エージェントの最大の強みです。
入社後に「オカシイ」と気がついたら
入社前に見破ることができず、入社後に「あれ?なんか・・・話が違うんじゃ・・・」と気がついた場合はどうすればいいのでしょうか。
まずは労働契約署にサインする前に、しっかりと内容を確認することは必須ですが、それでもその内容と異なる労働環境であった場合にとる選択肢は3つあります。
まず1つ目は「泣き寝入り」です。
リアルな現場ではこれが一番多いです。
が、私はオススメしません。
条件が多少違ったとしても、まぁこれなら許容範囲かなと思うのであればそのまま働き続けるのも良いかもしれませんが、到底許容できない程の条件の食い違いがあった場合には、他の選択肢も検討してみましょう。
今は良くてもその状況が1年、5年と続くことが想像できますか?
日本人の多くが職場のストレスから精神的な疾患を発症しています。
心身ともに健康なくして幸せはあり得ません。
2つ目は「交渉」
会社で雇用契約の内容と異なる労働をすることになった場合には、交渉することで是正を促すこともあるかもしれませんが、あまり現実的ではありませんね。
しかし会社によってはまともな話のできる人がいないこともありますので、相手がどのような人なのか見定めてから交渉する必要があります。
また、入社間もないと「新人がなんか言ってるよ」という冷ややかな目で見られてしまうことも多いため、それなりの覚悟かないとなかなか交渉は難しいでしょう。
本来は当然の権利を主張しているはずですが、実際の現場では辞めるつもりで交渉する覚悟が必要かもしれません。
3つ目は「辞める」「転職する」ことです。
ブラック企業をなくすためにはこれが一番良い方法ですが、そうは言っても生活もあるのでなかなか行動に移せない方も多いのではないでしょうか。
その結果、実際に90%前後の方が「泣き寝入り」しているのです。
しかし、もしも泣き寝入りする人が一人もいなくなったとしたら、求人詐欺はグッと減ると思いませんか?
理想論かもしれませんが、私は本当にそうなれば良いなと思っています。
辞めると言ってももちろん生活がありますので、現実的に考えれば仮面従業員を装いながら虎視眈々と次の職場探しをすることが望ましいですね。
転職活動と言ってもただ闇雲に次々と転生を繰り返していては、経歴に傷がつきまくってしまいます。
その結果、書類選考の時点でどこにも引っかからないような転職まみれの履歴書が出来上がってしまうかもしれません。
それでは自らチャンスを潰してしまっているようなものです。
ここぞという時にしっかりと準備をして転職を成功させることができるように、転職は転職のプロに相談するのが鉄則です。
例えば、もしあなたが盲腸で手術が必要になった時には誰に相談しますか?
まさか耳鼻科医のところに行って手術をお願いしませんよね?
医者なら誰でも良いわけではありませんよね?
ちゃんと外科医の先生にお願いするはずです。
同じように転職の場合も、転職エージェントなら誰でも良いわけではなく、転職したい分野に特化したエージェントを探す必要があります。
その専門分野に特化しているエージェントに相談することで、外科医に手術をお願いするように、安心して転職活動のサポートをしてもらうことができます。
エージェントはほとんどの場合、就職するまですべて無料で相談に乗ってもらうことができるので、利用しない手はないと思います。
とはいえヒト対ヒトですから、当然エージェントとも合う合わないはあります。
「このエージェント合わないな」と思えば、違うエージェントに相談してみればいいだけの話です。
手術は外科医、専門分野の転職は専門のエージェントに相談しましょう。
まとめ
求人票や募集要項と違う労働環境で働かされることは、今の日本ではまだまだ多くあります。
会計業界、特に税理士業界ではブラック企業化している事務所もかなりの数存在しています。
まずはそんなブラックなところに入社しないように、細心の注意をはらってよく見定めることです。
初めからその分野の転職の専門家に相談することで、そのようなブラック企業に勤めてしまう事故を減らすことができます。
入社してから気がついた場合は、自分のキャリアを考えながらより慎重に立ち回る必要があります。
ブラックな環境で長く働いている人は、多くの場合すでに頭がブラック企業を美化する思考に侵されていることがありますので、職場の先輩に相談しても何の解決にもならないことが多いでしょう。
誰に相談するか、相談先を間違えてはいけません。
職場の誰かに転職の相談をすることは絶対にやめましょう。
職場の誰かに相談してしまう人が多いのですが、転職のプロの視点で見たら、これは絶対にしてはならないことはもう常識です。
プロにきちんと相談して、求人詐欺(まがい)に引っかからないようにしましょう。
「うちの会社ブラックだ」
「あ〜辞めたい」
「今日も会社に行きたくない」
そんなことを思いながら毎日会社に通っている間に、あなたの心身は間違いなくストレスで蝕まれていきます。
命を削ってまでその嫌な会社にしがみつく必要はありますか?
専門のエージェントに相談して、求人詐欺から遠ざけてもらいながらあなたに合った職場を探しましょう。
「人を動かす」のD・カーネギーも、アップルを作ったスティーブ・ジョブスも、何度も仕事を変えながら自分に一番合った職場を見つけて成功しています。
職場は人生の多くの時間を過ごすことになる場所です。
自分のことですので、面倒臭がらずにしっかりと見定めていきましょう。
必ずあなたに合った職場があるはずです。